N夫妻が訪れたことがない、岐阜県の有名、無名産地を巡る1泊2日の旅を計画した。宿泊場所は
N夫妻がお膳立てしてくれ、われわれ夫婦はそれに乗っかって、ミネラル・ウオッチング納めを楽しむことに
なった。
9時少し前にN夫妻と合流し、この日の産地Aを目指す。ここは、トパズや煙水晶などのほかに、
「苗木石」などの希元素鉱物も採集できるポイントだが、N夫妻は初めての場所だった。
長靴やウエーダーを装着し、防寒対策を万全にしたうえで川に入る。持参したカッチャやスコップで
川底の土石をすくいパンニング皿で揺り分ける。ポツ、ポツとトパズが出てきて退屈はしない。ただ、
風こそないもののこの冬一番の冷え込みで日陰は氷が解けないほどだ。
持参したコンロでお湯を沸かし、熱いコーヒーを飲むと身体が温まり、元気が戻ってくる。
Nさんがトパズの良品をゲットし、妻も山入りの煙水晶を採っている。私は渋いところで、頭付の
「苗木石」だ。
【後日談】
帰宅後、採集品を「精密パンニング」で再度選鉱し直したところ、「苗木石」は現地ではハッキリ
しなかったが小さいものも数えると優に20粒以上採集していた。そのほか希元素鉱物の「ゼノタイム」
「フェルグソン石」などが観察できた。
(2) お昼はイタリアンと「エビフライ」
水際でのパンニングで身体の冷えた女性陣を一刻も早く暖かい場所に案内する。イタリアンが食
べられる場違いのようなレストランがあるのだ。店は混雑していて、4人が座れる場所が空くまで待た
された。
テーブルに案内され、皆さんイタリアンのパスタを注文するが、私だけメニューに「当店人気No1」と
ある「エビフライ」を注文する。この辺りは名古屋の食文化の影響を受けているのか、「ミソカツ」など
もメニューにはあるが今回はパスだ。
店内には、「12月25日で閉店します」と張り紙がある。ここに来ると、何回かに一度はこの店で
食事したが、なくなると聞くと寂しい。
「MHが店を買い取って経営しましょうか」という話になる。「店が暇なときは近くの川でパニングして
お客が来たら店に戻る」、という夢のような、でなくて”夢”を語りながら食べているとお腹も一杯なり、
体も暖かくなってきた。
(3) 産地Bでパンニング
午後は産地Bでパンニングだ。ここは、10年ほど前に815カラットの大きなトパズを採集した場所で、
N夫妻にとっては新産地だった。
しかし、堰ができたせいか、採り尽くすと新たに供給されないため、出てくるのはトパズの小さな
カケラや錫石だけだ。それでも、粒が大きくて両端に頭が観察できる両錐の錫石がパンニング皿に
残った。
『見切り千両』、とばかりに、早々に産地を後にした。
(4) 「中津川市鉱物博物館」
まだ3時前なので宿のチェックインには早すぎる。中津川市鉱物博物館を訪れることにした。私達
夫婦は11月に「正倉院展」の帰りに立ち寄ったばかりだったが、N夫妻にとっては久しぶりの訪問だっ
たようだ。
開催中だった第20回企画展「美濃焼・瀬戸物と花崗岩」もこの週末(12月18日)で終了だ。
他府県の博物館の資料を見ていると、「伊那谷自然史論集」の中に、「戸沢アンチモン鉱床の
産状」があったのでコピーを依頼した。(1枚10円)
「正倉院展」以来、アンチモンには敏感になっているし、ここはミネラル・ウオッチングで愛知県の
石友・Hさんに案内してもらったことがあり、キチンと勉強しておこうという気になったからだ。
5階の部屋は広々として、ベッドとたたみ敷き座卓のエリアもあり、老若どちらでも満足できる造りにな
っている。
夕食まで2時間近くあるので、まずはお風呂だ。ジャグジー、打たせ湯、ハーブ風呂、屋外には露天
風呂と備え付けられている。熱いのは避けて、温(ぬる)めの浴槽にノンビリと浸かって採集の疲れをと
る。
6時20分から夕食だ。平日とあってかお客は少なく、静かな雰囲気だ。まずは、ビールで乾杯だ。
麦飯がすでに釜の中で炊きあがっている。飛騨牛の陶板焼、朴葉の包み焼、などなど岐阜県の名物
が次々に出てくる。最後は、麦飯にトロロをかけていただく。もちろん、デザートもついている。そうだ、
料理の「お品書き」があったからそれを紹介しよう。
美味しい食事とアルコールの酔いですっかり良い気分だ。部屋に戻る前に、フロントにあったクリスマス
ツリーの前で記念写真だ。
夕食の後、N夫妻の部屋にお邪魔してクリスマス・プレゼントの交換だ。秋のミネラル・ウオッチングの
前後に採集した某所の「エステレル式双晶」や「日本式双晶」そして幻の産地の「ウッドワード石」など
をお渡しした。お返しに、関西の私が好きなペグマタイト産地の標本をいくつかいただいた。
Nさん差し入れの清酒「女城主」を呑みながら、孫の話で盛り上がる。だが、Nさんの奥さんが風邪気
味ということで20時前にお暇させていただいた。
7時少し過ぎにロビーで新聞を読む。プーチンもしたたかで、北方領土問題は進展がなかったどこ
ろか、一時よりも後退した感じだ。
バイキング形式で自分の好きなものを好きな量だけいただく。「雪です。今年の初雪です」、という
給仕の女性の声に促されて外を見ると、雪がチラついている。空は雲が厚く垂れこめているが、われ
われが向かう西の空は明るいのが救いだ。
(2) 白川村の鉱山跡でミネラル・ウオッチング
8時半に宿を出る。白川村に行く途中の遠ケ根峠は雪があるはずだが、Nさんの車もスタッドレス
タイヤを履いているというので峠越えすることにする。案の定、峠の日陰には雪がうっすらと積もって
いるのでスピードを落として進む。もう一つ峠を超えるはずだが、そこは2010年に開通したトンネル
になっていた。ということは、6年以上来ていないということになる。
41号線に出て、「おばあちゃんの店」で休憩してからこの日の産地の鉱山跡に入る。車を降りて
歩き始めると以前来た時にはなかった「鉱山跡」などの標識が出ている。そこを少し進むと精錬所
跡が見えてくる。
この奥にズリがあるのだが、少し様子が変わっている。皆さんを残して私だけで偵察に行くとズリだ
ったところは林道が通り、”ズタズタ”になっていて”産地が消滅”だ。
こうなれば選鉱場跡に戻って2次鉱物探しだ。「孔雀石」、「珪孔雀石」、「異極鉱」などはある
のだが、目指す「イットリウム・アガード石」は難しい。そのうち、Nさんが2次鉱物の源鉱物の「黄銅
鉱」の素晴らしい標本を採集し私も白い「アロフェン」に覆われた「珪孔雀石」を採集した。
そうこうするうちに、お昼になったので撤収だ。
(3) 鍋焼きうどんでランチ
この日は瑞浪にある「瑞浪鉱物展示館」を見学する予定だった。41号線を南下すると道の駅が
あったのでここで昼食だ。メニューをみると鍋焼きうどんがあったので注文する。
お昼を食べた後、さらに41号線を南下し七宗(ひちそう)町に入ると、「日本最古の石」博物館
があるので立ち寄ってみた。
(4) 「日本最古の石博物館」
1970年に七宗町の飛騨川岸の露頭にある「上麻生(かみあぞう)礫岩」の中に含まれる20億年前
の片麻岩礫が発見され、日本最古の石となった。
鉱物でなくて石なので興味は今一つだが、この礫岩の中には35億年前の鉱物「ジルコン」が含ま
れていると知ると興味が湧いてくるから不思議だ。
【雑談】
地球が誕生してから46億年と言われている。地球上で発見されている最古の石はカナダで発見
された「アキャスタ片麻岩」で、この岩石は39.6億年前に花崗岩として誕生し、36億年前に片麻岩
化した。
2016年のノーベル医学生理学賞を東京工業大学の大隅栄誉教授が受賞した。受賞理由は
「細胞の自食作用(オートファジー)の機構の解明」だそうだ。「オートファジー」なる単語を初めて
見聞きしたのは私だけであるまい。
「オートファジー」とは、簡単に言えば私達の体内にある数十兆個あると言われる細胞の中で
古くなったタンパク質や異物などを分解し、その分解でできたアミノ酸から新たなタンパク質を作る
リサイクルシステムがあり、この分解作用をさすようだ。よく言われるように、細胞は生まれ変わるの
だ。
岩石(鉱物)の世界も同じで、岩石が風化→礫や土砂になる→堆積→圧力や熱で変成を受ける
→地下深くに引きずり込まれる→高温になり溶解する→再結晶(固化)する→岩石の誕生。
このようなサイクルを繰り返しているので、地球誕生のときに生まれた岩石(マグマ?)は残ってい
ないのだろう。
(5) 「瑞浪鉱物展示館」見学
瑞浪には民間会社が運営している鉱物展示施設「瑞浪鉱物展示館」があるので見学すること
にした。以前観たときに比べ収蔵品が整理され、見やすくなった印象だ。展示標本は外国産が多
いがそれでも岐阜県や苗木地方の鉱物などは専用のショーケースにまとまって展示してある。私が
住む山梨県では乙女鉱山の「日本式双晶」や「ライン鉱」、渋いところでは京の沢の「苦土フォイト
電気石」などがあることからわかるように、国産鉱物もポイントとなる標本はシッカリと抑えてある。
国産標本を見ると、「これだったら私が持っている標本の方が上だ」などと勝手なことを言いながら
全部の標本を見て回った。事務所に行き「素晴らしかった」と感想を述べると社長さんは相好を崩
されていた。
(6) また会う日まで
瑞浪鉱物展示館を出たのは16時ごろだった。名残惜しいが、再会を期して、ここでN夫妻とお別
れした。南北(東西?)に帰宅路を順調に走り、20時ごろにはN夫妻も無事帰宅されたとメールを
いただいた。
そんなわけで、『ミネラル・ウオッチング納め』をどこでやるか、なかなか思いつかなかったが、『古泉
に水涸れるず』、の諺を信じて昔行った産地をご一緒することにした。
その結果、思いがけない収穫もあったが『産地消滅!!』の現実も目の当たりにした。
そういえば、国内にいれば、欠かさずに行っていた年末恒例の池袋ショーも行かず仕舞だった。
鉱物収集に賭ける意気込みのようなものも以前に比べ希薄になりつつあり、採集そのものよりも
人との出会いを楽しむウェイトが高まってきたような気がする。
気の置けない人との『ミネラル・ウオッチング納め』は何よりの喜びだった。