2020年 ミネラル・ウオッチング納め in 山梨











         2020年 ミネラル・ウオッチング納め  in 山梨

                 ( Year End Mineral Watching in Yamanashi , 2020 )

1. はじめに

    新型コロナウイルスに明けて、そして暮れた2020年が残すところ1週間を切ったころ、今年の『ミネラル・ウオッチ
   ング納め』
をどこでやろうか、と考えた。
    東京品川で暮らすようになって丸1年が過ぎ、山梨の家に帰るのは月1回郵趣会の例会のほか、畑仕事や
   長野県での子どもたちの課外授業の下見や本番など限られた時しかなくなっている。

    そんな状況だから、ほとんど行っていない山梨の産地にしようと思いついた。”初詣は氏神様で”と同じで、採集
   納め、採集はじめは地元の産地でだ。
    思いついたのは甲府市黒平(くろべら)町にある向山(むこうやま)水晶鉱山跡だ。ここは、2002年の暮れに
   雪の積もった山肌の尾根から谷を虱潰しに歩き回り、坑道や露頭そしてズリの位置を探査した思い出のフィール
   ドだ。

   ・ 山梨県黒平向山鉱山の水晶
   (Rock Crystal of Mukouyama Mine , Kurobera , Yamanashi Pref.)

    この時は、水晶と武石(黄鉄鉱が風化して外形を残したまま内部がゲーテ鉱に変化したもの)を発見しただけ
   だった。その後、YYコンビと訪れ、ガマ(晶洞)を開け、水晶の美晶と山梨県では珍しい砒酸塩を主とする2次
   鉱物の美晶にも出会えた。

   ・山梨県黒平・向山鉱山の巨晶・美晶
    ( Big , Beautiful QUARTZ from Mukouyama Mine , Kurobera Town
       Kofu City , Yamanashi Pref. )

    2019年10月に茨城・K兄弟を案内してここを訪れたのが最後だった。この時は黒平への林道が崖崩れで
   路上に落下した大きな岩を取り除いて進むというハプニングもあった。堅い露頭を叩き続け、小さな
   ガマが開き、透明な平板水晶と毒鉄鉱を採集した。

     
            崩落した岩をどかして進む           堅い岩を叩き開いたガマから水晶を掻きだす
                             採集風景【2019年10月】

     
                    水晶                          毒鉄鉱
                             採集標本【2019年10月】

    1年ぶりの訪山で、水晶ガマこそ開かなかったが「毒鉄鉱」などの2次鉱物美晶を採集でき2020年のミネラル・
   ウオッチングを終えることが出来た。
   ( 2020年12月 体験)
   

2. 産地と産状

    詳細は上記のページに記載してあるので省略する。25日の夜に品川から山梨に移動し、庭木の剪定など正月
   を迎えるための準備も終えた29日に向山鉱山跡を訪れた。自宅から駐車スペースまでわずか25`しかないが、
   路面が凍結している恐れがあり小1時間かかった。車を降りて、沢沿いに30分も登ると産地だ。
    今年は、産地までの日陰には雪が見られ、坑道の入口には今まで厳冬期でも見たことがない大きなツララが
   観察でき、この冬の寒さが尋常でないことを知らせてくれていた。

       
                   坑道入口                   石筍のようなツララ

3. 採集方法

    ここぞと思うポイントをハンマとタガネと掘り崩して”ガマ”を探す。露頭の母岩が堅いので、予備を揃えた頑丈な
   タガネと2.1`の大きなハンマが必要だ。前回は3人で交替しながらだったが、今回は一人なので、何よりも、
   大きなハンマを1時間、2時間と叩き続ける気力と体力も不可欠だ。

4. 観察標本

 (1) 毒鉄鉱【PHARMACOSIDERITE:KFe3+4(AsO4)3(OH)4・6-7H2O】
      青緑色透明、立方体の結晶で”三角穴”と呼ぶ、多形水晶(石英)が作る空間に産出する。ここでは、
     最大1cmクラスの結晶が産出し、『日本一』、と呼んでも過言ではないだろう。今回、最大1辺が3ミリ近い
     結晶が晶洞を埋めるように集合した標本を採集できた。
      左端の結晶を微細に見ると、完全な1つの直方体でなく、小さな結晶が集合しているのがわかる。これを
     ”モザイク性”と呼ぶらしい。
     一見きれいな単結晶に見えるものをよく調べてみると、ほんのわずか(数10分−数秒)ずつ結晶方位が
     傾いた微細な単結晶が集合していることがわかるその一例だ。

      
                        毒鉄鉱

 (2) スコロド石【SCORODITE:Fe3+AsO42H2O】
      濃い緑色、透明、斜方錐面結晶が石英の晶洞に成長している。今回採集した3ミリを超える大きな
     結晶が集合する標本の表面にはガマの残留成分がコーティングされていて黒く見えるが、透過光で見ると
     鮮やかな緑色に見え、”宝石級”だ。

         
                      反射光                                  透過光
                                          スコロド石

      今回も下の写真のように、柱面が発達し、放射状の『菊花状』が『球状』になったものを採集した。周囲に
     点在する四角い結晶は小さな毒鉄鉱だ。

      
                   スコロド石【球状】

 (3) 不明鉱物
      2次鉱物には肉眼で鑑定するのが難しいものが多い。下の写真の球状鉱物は「菱鉄鉱」【SIDERITE:FeCO3
     にも見える。黄褐色の皮膜状の鉱物は「アーセニオシデライト/灰砒鉄石」【ARSENIOSIDERITE:
     Ca2Fe3+(AsO4)3O2・3H2O】にも見える。
      どちらもスコロド石と共生している。長石類が風化した白土はふんだんにあるから、カルシウム(Ca)はあり
     そうだが、炭酸塩(CO3)はありそうもないのでこれらの鉱物なのか、自信がない。

      
         不明鉱物(菱鉄鉱/アーセニオシデライト?)

5.おわりに

 (1) たき火
      今、たき火が静かなブームになっているようだ。テレビでも”ヒロシ”が人里離れた場所でたき火する番組が
     放送されていた。
      私は子どもの頃からたき火が好きだった。真冬の甲武信鉱山や○○○の水晶産地でたき火をし、時には
     昼食をこしらえた記事を載せた記憶がある。
      今回、寒いのでお湯を沸かしてコーヒーを飲んだり、”カップヌードル”を食べようと、ヤカンと水を持参した。
     (当然マッチも)

      産地に着いて荷物を下ろすと、手ごろな石を集めて”炉”をこしらえた。枯れ枝を集めて火をつけたが木が
     湿っているのかなかなか燃え上がらない。採集標本を包むために持参した新聞1ページを丸めて火を点け、
     小枝を載せると燃え上がった。太い枝を何本かくべて置いて坑道に潜った。

      1、2時間露頭を叩いて休憩や食事に出てくると火はとうに消えていて最初からやり直しだ。こうして、たき火
     が燃え上がったところでお湯を沸かした。

      
                たき火でお湯を沸かす

       物音ひとつしない静かな山の中で、湧いたお湯でコーヒーを入れて飲んでいると下界の雑事が遠い世界の
      出来事のように思えてくるから不思議だ。これがたき火の効用なのだろう。

 (2)2021年 年賀状
     新春に多くの石友からも年賀状をいただいた。昨年採集した標本や採集風景の写真を載せた賀状もあるが、
    新型コロナウイルスの影響でほとんど採集に行けなかった人が多かったようだ。

     傑作は滋賀・鮒鮨さんからの1枚で、「最近石の嗅覚なくなってきた コロナかな」だ。

     返歌は、世界一周旅友の愛知・人生大学さんの一句、「3時間 待って病名『加齢』です」

     今年も明るく陽気に生きましょう。

      
                        石友からの年賀状

6.参考文献

 1) 草下英明:鉱物採集フィールド・ガイド,草思社、1988年
 2) 松原 總著:日本産鉱物種第7版(2018),鉱物情報,2018年








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