手術が成功し、集中治療室から個室に移ったと聞き、お見舞いに伺ったのは倒れてから10日ほど
経ってからだった。お会いすると思ったより顔色も良く、当の本人が「早く水晶採りに行きたい」という気
があるので、”ホッ”と一安心して病院を後にした。
病院まで、片道300キロ弱ある。40歳代の時は、山口県から甲府まで、途中でミネラル・ウオッチングを
楽しみながら1,000キロ余を1日で走ったのだが、最近は長距離を運転すると疲れが出て”居眠り運転”
する危険性が高くなってきた。そこで、途中の中津川で一泊してゆっくり帰ることにした。
2016年2月、湯之奥金山博物館で開催された「金山史研究フォーラム 2016」で『中津川の砂金』
の発表があった。
どうせ中津川に泊まるなら、来年度のフォーラムに向けて、「中津川市鉱物博物館」で調べものを
したり、砂金(砂鉱)産地のその後を確認することにした。
( 2016年2月 調査 )
2つの紀念碑をシリーズで紹介したのは2006年のことだった。特に、2つ目の仮称・『第2錫鑛記念碑』
記念碑は一般にはあまり知られていないようで、このページがその存在を世に知らしめる嚆矢となった。
早いものであれから10年が経ち、錫鑛産地や記念碑がどうなっているか立ち寄ってみた。
早春の木積沢の流れは、渇水期で水量も少なく、”ノタリ、ノタリ”という感じだ。
気のせいか、10年前に比べ裏側の苔が増え、碑文が読みにくくなったようなようだ。
こちらも、10年前に比べ裏側の碑文が読みにくくなったような気がした。
【ご注意】
なお、『第2錫鑛記念碑』は個人の所有物ですので、見学する前に所有者の長谷川さん(碑の下
の家)の了解を得てください。
3.1 「中津川市鉱物博物館」収蔵品
以前も何回か見たことがあったのだが、今回は”標本とラベル”を対応させて写真に収めておきたか
った。
砂金関連では、「砂金」そのものと「錫石」が展示してある。
ラベルを見ると、産地は『中津川市苗木浅間』となっている。”浅間”はいろいろな読み方があり、
違った読み方をすると現地で聞き込みするときに知っているのに知らないと答えられてしまう恐れがあ
り、正しい読み方を調べておく必要がある。
私など普通には、”浅間山”は”あさまやま”、”浅間神社”は”せんげんじんじゃ”と読むのだが、「中
津川市鉱物博物館」の東にある”浅間山”は”せんげやま”と読むと知った。そうなると、”浅間”は
”せんげ”となる。念のため、博物館の受付で確認すると間違いなさそうだ。
このほか、収蔵品の中には、各種の「錫石」に混じって「木錫(もくしゃく:Wood Tin)」があったこ
を覚えていただいた。
「錫石」は、加藤先生の「ペグマタイト鉱物」によれば主として、@気成鉱脈鉱床 A火山底性
鉱脈鉱床 ?花崗岩ペグマタイト中 に産するとされる。
「木錫」は名前の由来にもなった独特の木目模様があるのが特徴で、カラフルな錫と白い石英の
溶液が交互に繰り返し沈殿して熱水鉱床で生まれたとされる。産地に、「苗木泥川」とあるので、
「山ノ田川」の近くだろと推測した。
【後日談】
翌日、砂金を探していると私と同年輩の地元の男性に「泥川」を知っているか尋ねてみた。郵便
配達をしていたというので期待したが、「泥川と言う地名はない」という。
通りかかった女性にも同じことを訪ねると、「私はお嫁に来たのでわからない」、と予想通りの答えだ
った。ただ、この女性は私達の車が山梨ナンバーなのを見てか、「主人の父親は山梨の人で、この
上(浅間山)の方にあった採石場で働いていて、ここに住むようになった」、と親しみを込めて話して
くれた。
3.2 「苗木地方の鉱物」の記述
一方、長島先生の「苗木地方の鉱物」には、砂金産地として『山ノ田川』と『馬場川』が載って
いる。
キーワードは、『苗木浅間』、『山ノ田川』、『馬場川』だ。地図でこれらの地名・川の名前を探し
てみた。
すると、『浅間山』の東を北から南に『山ノ田川』が流れている。山と川の間に『苗木』の地名が
あるので砂金産地はここだろうと踏んだ。
もう一か所の『馬場川』も探してみたが、その名前の川はない。しかし、『馬場』という地名はある
ので、この近くを流れている川を「馬場川」と呼んでいるのだろうと推測した。
2010年7月、神奈川県の石友・kさんのブログに、『苗木地方で砂金採集』の記事が掲載され
た。湯之奥金山博物館の「砂金堀大会」でKさんに会ったとき、産地を聞くと、私がトパズや『希
元素鉱物』を求めて既に何回か訪れている『木積沢』だった。
8月中旬、妻と2人で訪れたが、砂金は一片も見つからなかった。思いあまって、8月下旬、現地
で砂金の採集方法を直接指導していただいた。
・ 岐阜県苗木地方の 「 砂金(自然金) 」
( Placer Gold(GOLD) from Naegi Area , Nakatsugawa City , Gifu Pref. )
K夫妻、私たち夫婦の4人で3時間あまりパンニングしたが、砂金は全く姿を見せなかった。われわ
れ夫婦と違い、K夫人は”砂金掘り大会”で上位入賞した腕前なので、見逃すことはないはずで、
砂金はあったとしても、極々少ないのだろう。(無いとは断言できない)
何としても苗木地方の砂金を採集してみたい私のたっての希望で、午後から古い文献に砂金
産出が報じられている別な川を探索する事になった。最初取りついたポイントで4人が30分以上
パンニングしたが砂金は1片も採れなかった。別なポイント(地図の○ 印)に移動して、私の2回目
のパンニング皿の底に、黄金色も眩(まばゆ)い砂金が残り、思わず歓声を上げた。1粒見つかれ
ば必ずあるのは確実で、ジックリ攻めることにした。
「山ノ田川」では私しか採集できなかったのが気がかりだった。ミネラル・ウオッチングも何人かが
採集できたという『再現性』が立証されて、初めて産地として認定されべきだからだ。
翌9月になって、私達夫婦とKさんの3人で再度挑戦した。
・ 岐阜県苗木地方の 「 砂金 」 その2
( Placer Gold(GOLD) from Naegi Area - Part 2 -, Nakatsugawa City , Gifu Pref. )
この時も、砂金を採集できたのは、私だけだった。同じ9月、私達夫婦とKさんの3人で3度目の
挑戦をした。
このとき、ようやく妻が1粒採集し、『再現性』は立証された。
4.2 「馬場川」の砂金産地探査の経緯
4.3 「苗木の砂金産地」の現状
14.5人・日の工数を掛けて、採集できたのは砂金7粒、木錫2個だった。平均すると1人が丸2日
実は、その後もここを通りかかると時間があれば短時間パンニングしてみていたのだが、絶えて
しかし、3時間ほどやってみたが砂金どころか木錫すら姿を現さなかった。少量の錫石と希元素
草下さんの「鉱物採集フィールド・ガイド」に、『・・・・・、採りもしない鉱物を「採った」といって
そんなわけで、産地を公開し、できるだけ多くの方に挑戦していただき、このポイント周辺で砂金
運よく砂金が採集できた方は、写真を添えてメールいただければ幸甚だ。
Mineralhuntersの連絡先;nakaga@tb3.so-net.ne.jp
( Placer Gold(GOLD) from Naegi Area - Part 3 -, Nakatsugawa City , Gifu Pref. )
こうなると、もう一つの産地『馬場川』を突き止めてみようという気力が生まれてきた。午後から
『馬場川』と思しきところでパンニングするが砂金は姿を見せなかった。翌日は場所を変えてやって
みたところ、Kさんが燦然と黄金色に輝く砂金を採集し、ここが馬場川だろうということにした。
2010年の採集行の結果を改めてまとめ直してみた。
回数 年・月 探査・採集地 採集時間(日)
×人数 採集砂金数 採集木錫数 備 考
MH 妻 Kさん K夫人 MH 妻 Kさん K夫人
第1回 2006年8月 山ノ田川 0.5×1 0 ― ― ― 0 ― ― ―
木積沢 0.5×2 0 0 ― ― 0 0 ― ―
第2回 2006年9月 木積沢 0.5×4 0 0 0 0 0 0 0 0
山ノ田川 0.5×4 3 0 0 0 1 0 0 0
第3回 2006年9月 山ノ田川 1×3 2 0 0 ― 1 0 0 ― 回収時1ケ紛失
第4回 2006年9月 山ノ田川 0.5×3 0 1 0 ― 0 0 0 ―
馬場川 1.5×3 0 0 1 ― 0 0 0 ― Kさんの砂金と
妻の採集品を交換
合計 14.5人・日 5 1 1 0 2 0 0 0
総計 14.5人・日 7 2
間かけてようやく1個採集できるレベルなのだ。これは、産地の産出量が極めて少ないことを物語っ
ている。
さらに気になるのは、苗木としてはまとまって産出した山ノ田川での採集数が日ごとに 3ケ → 2ケ
→1ケ と少なくなってきていて、”取り尽くした”のではないかと思われることだ。
採集できていなかった。
今回(2016年2月)に気合を入れて「山ノ田川」の過去に採集できたポイント(上の地図の○印)
で妻と2人でパンニングしてみた。
妻は2006年に採集した岩の上の苔、私は岸辺の岩盤の割れ目の堆積土砂を回収してパン
ニングした。
岩の上の苔を回収 岩盤の割れ目の堆積土を回収
採集風景
鉱物が採れただけだった。
唯一の収穫は、岩盤の上に甌穴(おうけつ:ポットホール)があるのを妻が発見したことだ。
「甌穴」
5. おわりに
(1) 皆様にお願い
延べ15人・日以上の工数をかけたにもかかわらず、「苗木の砂金」は7粒しかない。山ノ田川で
採集できたのは、私と身内の妻だけだ。
これでは、『産地発見者以外でも採集できる』、という産地の認定条件を満たしていない。
嘘をついたり・・・・・・・・』、との記述があり、身近にそのような人がいたことを匂わせている。
立会人のK夫妻がいたのだが、私と妻しか採集できていないのでは、この例のように思われても
反論の余地もない。
が採集できることの立証にご協力いただきたい。
6.参考文献
1) 藤浪 紫峰( 桜井 欽一):おにみかげ紀行 我等の鉱物,昭和8年〜昭和9年
2) 長島 乙吉:苗木地方の鉱物,岐阜県中津川市教育委員会,昭和41年
3) 草下 英明:鉱物採集フィールド・ガイド,草思社,1988年
4) 加藤 昭:ペグマタイト鉱物読本,関東鉱物同好会,2000年