山梨県甲府市竹日向(たけひなた)の近況 −2021年 5月−












  山梨県甲府市竹日向(たけひなた)の近況 −2021年 5月−

1. はじめに

    東京に住むようになったのが、2019年8月末だから、間もなく丸2年を迎える。山梨に戻るのは、別な趣味の切手の
   会の例会(月一回)のほか、家やMH農園の手入れをするときだけだ。

    2021年のGWは、春の農作業をするのに山梨に戻った。農作業もあらかた終わり、1日暇ができたので、久しぶりに
   ミネラル・ウオッチングに行くことにした。自宅から一番近い「竹日向(たけひなた)」に「ガドリン石」を採りに行くことにした。
   ここは自宅から一番近い有名産地で、朝出て採集を終わらせて昇仙峡辺りで昼食を摂ることができるからだ。

    妻を車に残して、一人で林道を進み、終点から古い峠道を登る。「峠」の手前から昔採掘した尾根を目指して道なき
   道を登って行くと産地だ。途中で露頭の観察などをしていたので、1時間半ほどかかり、着いたのは10時ごろだった。

    産地の状況は最後に訪れた2014年ごろと同じで、時々訪れる人がいるようだが大きく変わってはいない。1時間程の
   採集で、「ガドリン石」、「フェルグソン石」などを採集し、ズリの土砂を袋に入れて持ち帰り、竹日向集落の沢でパンニングし
   「ガドリン石」の分離結晶を採集した。

    お昼を回っていたので、昇仙峡の県立駐車場脇にある土産物屋兼食堂『一休』で名物のホウトウをいただいた。ここは、
   櫻井欽一先生がお世話になった市川 利夫氏の家族が経営してしている。娘さんは調理場で働いておられ、店は孫娘が
   仕切っているようだった。

    『古泉に水涸れず』 の諺通り、いつ行っても楽しめるありがたい産地だ。
    ( 2021年5月 採集 )

2. 産地

    すでに、何回か紹介しているので、詳細は割愛する。林道の雑草は綺麗に刈り取られ、歩きやすかったが、いつまた
   荒れ放題になるかわからない。
    この辺りの地質図を見ると、「昇仙峡花崗岩」に「黒富士火山」や「水ケ森火山」からの溶岩や火砕流が覆いかぶさって
   いるようだ。

    
                        竹日向周辺の地質図

     林道脇の露頭には、かつて鉄礬石榴石の美晶を採集したペグマタイトがあるかと思えば、安山岩や火砕流などが
    観察できる。安山岩の中には、「輝石」の斑晶も見られる。

    
                 「輝石」(10ミリ)

     尾根に出て、東の方に150bも進むと、かつての採掘跡がある。尾根筋が甲府市竹日向町と塔岩町の境界線に
    なっていて、一部は塔岩町にも入っている。

    
                産地「境界の杭の左(北)側が竹日向町)

3. 産状と採集方法

    希元素鉱物を含むペグマタイト鉱物は、花崗岩の結晶粒が大きいペグマタイト(巨晶花崗岩)部分に産出する。

    花崗岩がむき出しになった露頭を観察し、結晶粒が大きくなった部分を掘り崩して露頭から採集する。昭和24年
   (1949年)、長島乙吉氏がここを訪れたときに掘っていた露頭のズリ石が数百メートル下まで広がっているので、ここの転石
   やズリを掘り返して探す。帰りには、露頭周辺の土砂を土嚢袋に入れて麓まで運び、沢の水でパンニングする。

    露頭の下のズリで、転石や表面採集とパンニングのほうが「ガドリン石」などを採集できる可能性が高いだろう。

    
                   竹日向のズリ

4. 産出鉱物

 (1) ガドリン石【GADOLINITE-(Y):Y2FeBe2(SiO4)2O2
     長島先生の「日本希元素鉱物」には、『 白色の曹灰長石中より産す 』とある。長石の塊があれば、
    ”鮮緑色”〜”黒色”の部分がないか全周くまなくルーペで探す。
     大きい塊の場合、小割して探すくらいの執念がないと見つからないかもしれない。

          ↓


       
                 全体(30ミリ)                              部分
                                 母岩付きガドリン石

     パンニングで採取できる分離結晶は、小さなものが多いが、稀に1センチを超え、結晶面が何面か確認できるものも
    あるから侮れない。

    
                   ガドリン石分離結晶(6ミリ)
                     【パンニング採集品】

 (2) フェルグソン石【FERGUSONITE-(Y):NbYO4
      黒褐色、先のとがった四角錐状結晶で産する。

    
                   フェルグソン石(5ミリ)

 (3)黒雲母/白雲母【Biotite/Muscovite
    :K(Mg,Fe)3(Al,Fe3+)Si3O10(OH,F)2/KAl2(AlSi3)O10(OH)2
     竹日向のペグマタイトは石英・長石・白雲母からなる、と書いている文献がるが、ここは圧倒的に黒雲母が優勢で、
    白雲母は稀で、あったとしても貧弱なものしかない印象だ。
     黒雲母が”噛んで(包有して)いる”粒状の鉱物は、「鉄礬ざくろ石」【ALMANDINE:Fe3Al2(SiO4)3】だ。

       
                  黒雲母【六角板状】                        白雲母【柱状】
                                      竹日向産雲母

 (4)不明鉱物2種
     『ハロ』と呼ぶ石英が放射能鉱物で黒く変色した付近に結晶鉱物が観察できる。希元素鉱物らしいのだが、鉱物名を
   確定できないでいる。そのままにして置くわけにもいかず、「○○」かな?、と『甘茶』なりに鑑定してみた。いずれも、顕微鏡
   写真サイズの小さなものだ。

   @ シルト石【Cyrtolite:−】(?)
     「日本希元素鉱物」によれば、変種ジルコン(Altered Zircon)のうち、”希土類元素の著量を含むものを
    ”シルト石”としている。
     HP「水晶山の鉱物」によれば、”透明〜白い針状結晶が放射状に集合”しているとあり、古い石友・Mさんと
    「ああでもない、こうでもない」と苦心した挙句、到達した暫定的な答えがシルト石である。

    
                    「シルト石」か?
                   【結晶大きさ5ミリ】

   A 変種ジルコン【Altered Zircon:−】(?)
      六角板状の結晶が重なっている(双晶している?)ように見える結晶があり、変種ジルコンでは、と鑑定した。
      ( 希元素鉱物の鑑定で「困った時の変種ジルコン」という手がある)

    
                    「変種ジルコン」か?
                    【結晶大きさ7ミリ】

5. おわりに

 (1) 久しぶりのミネラル・ウオッチング
      2020年末のの採集納め以来、5ケ月ぶりのミネラル・ウオッチングだった。東京に住むようになって日常生活環境
     が一変した。山梨で自宅の窓から見えた富士山や山々の景色は高層ビル群と空を低空で飛ぶ旅客機に変わって
     しまった。

      自然の中を一人で歩き、岩や木々そして植物と対話する時間の貴いことを改めて知らされた数時間だった。

 (2) 二人いた”としお”さん
      帰りに「一休」で甲州名物「ほうとう」を昼食に食べた。この日は、車のナンバーから東京方面からの観光客が
     いっぱいいた。他の都県にくらべコロナ感染者が少ない山梨県は安全だと思われ、出かけてきたようだ。

      昼食を食べる場所に「一休」を選んだのは、長島先生の『日本希元素鉱物』に、(産地の)案内は、竹日向の
     市川 利男氏を煩わすとよい。』
とあるとおり、ここは”としお”さんの家族が経営しているからだ。

      2003年の早春、竹日向でのミネラル・ウオッチングの後、「一休」に立ち寄ったことがあった。このときは、”としお”さん
     の奥さんと娘さんがご健在で、昔のことをいろいろと聞くことができた。

      ・山梨県甲府市竹日向の希元素鉱物
      (Rare Element Minerals of Takehinata , Kofu City , Yamanashi Pref.)

      今回訪れると、孫娘の代に代替わりしていて、櫻井先生が長期逗留してしていたことや希元素鉱物の「ガドリン石」
     を探していたことなど全く知らない様子だった。
      市川 利夫氏の名前を出すと、「”としお”さんは二人いる」、という思いがけない答えが返ってきた。NHKの番組
     「ファミリーヒストリー」を観ると、子どもでも親の出自や経歴を知らないのは珍しくないのだから、孫の代になれば
     なおさらだ。

      逆に言えば、2003年に奥さんと娘さんから貴重な話を聞いて記録に残して置いて良かったと思っている。

6. 参考文献

 1)長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
 2)益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
 3)中津川鉱物博物館編:第4回企画展 長島鉱物コレクション展
                 −希元素鉱物への探求−,同館,2000年
 4)松原 聰:日本の鉱物,学習研究社,2003年
 5)松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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